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近代的・最先端の施設に注目が集まり、メディアでもその様子をいち早く伝えることが主流となっている現代。それらが好まれる傾向がある一方で、郷愁感と昭和レトロ感に魅せられノスタルジックな世界に引き込まれる人々も少なくはありません。事実、古民家カフェや昭和レトロスタイルの街並みがイマドキ女子の流行になったり、昔流行したゲーム機やおもちゃなどへの熱が再燃し現代人の中で再ブームが到来したりと、現代にあって改めて見直される昔ながらの風景・スタイルに注目が集まっています。
銭湯はまさにそのひとつで、近年その古き良き時代にあったお風呂やさんが密かなブームになっているようで、銭湯芸人というジャンルで大阪のローカル番組では定期的に特集コーナーが組まれたり全国放送の人気バラエティ番組でも銭湯紹介特集をしたりと、メディアでも話題となっています。
地元の銭湯に行ったことがあるという方も多いのではないかと思いますが、実は関東・関西では銭湯の設備や配置、スタイルなどに違いがあることをご存知ですか?通っている銭湯があれば他の銭湯と比べることもないと思いますのであえて意識したことはないかもしれません。では、地方へ遊びに行ったときや旅行、出張などのときにその街の銭湯に入った経験はありませんか?言われてみないと案外気が付かないものですが、いくつかの違いをご紹介します。
湯船(浴槽)の位置に違いがある銭湯が多いようです。理由としては諸説ありますが、有力なものでは関東ではかつて肉体労働をする職人が多く、まず泥や汗など汚れを落としてからお湯に浸かる習慣があったため洗い場が手前に、湯船が奥に配置されているようです。一方、関西ではかつて商人が多く、会話を楽しみながら湯船に浸かる文化が根付いており中央の湯船からお湯を汲んでかけ湯をした後、湯船に浸かっていたことから、その名残が残っているという説があるようです。関西の商人にとって銭湯は大事なコミュニケーションの場であったことがわかるエピソードですね。ただ、現在では構造上の問題や配管が複雑になるなど様々な理由から関西の湯船中央配置は減少傾向にあるようです。
上述した通り、関東では先に体の汚れを洗い流してから湯船に浸かる文化であったため、カランの数が関西に比べ多く、また関西では湯船から直接お湯を汲み体を流すかけ湯文化であったため、カランの数が関東に比べ少なかったと言われています。
こちらも湯船に浸かる前のそれぞれの文化に由来しているという説があります。関西はかけ湯文化なので、湯船から直接お湯をすくって体にかけるため、お湯が極端に減らないように湯船自体が深く作られており、お湯の量も関東に比べて多いそう。関東は湯船に浸かる前はカランを使うので、関西に比べて湯船が深くなくお湯の量も一般的。それぞれ過去の入浴スタイルの名残があり、現代の東西の違いを生み出しているのだと考えられています。
銭湯といったら、ケロリン桶という印象があるほどそのイメージが定着しているケロリン桶。半透明の鮮やかな黄色の桶の底に、「ケロリン」と赤字で書かれた文字に見覚えがある方も多いのではないでしょうか。この桶(通称ケロリン桶)の大きさにも東西の違いがあります。関東のケロリン桶は関西のそれより一回り大きい仕様。関西のケロリン桶は関東に比べ一回り小さく、また軽量に作られています。こちらもまたかけ湯文化に由来しているという説が有力なようで、関西は直接湯船からお湯を汲んで体にかけるかけ湯スタイルなので、湯船のお湯を取りすぎないよう、また使いやすいよう小さめの仕様に、関東はカランから直接お湯を汲むスタイルなのでカランで体を洗う際に使いやすいよう大きめの仕様になっていると言います。
ケロリン桶は関東が大きめに作られている、というと少々語弊があるようですが、ケロリン桶を扱う会社によれば、そもそもケロリン桶が最初に置かれたのは東京温泉(現在は閉店)で、関東版のみの取扱いだったとか。その後ケロリン桶の営業にまわった際、関西の銭湯からは大きすぎるという意見があり、要望に応える形で関西版の一回り小さいサイズを販売するようになったそう。シェアで言えば関西版は大阪・兵庫・京都の一部の銭湯に置かれているだけで、全体の9割近くは関東版のサイズが占めていると言います。
また、ケロリン桶はこどもが多少乱暴に扱っても腰掛けにされても壊れないほど丈夫であったことから、「永久桶」の異名を持っているそうです。ちなみに初代のケロリン桶は乳白色でしたが汚れが目立つということで、現在の黄色に変更されました。銭湯だけでなく、全国のゴルフ場や温泉などの浴場で幅広くその活躍を目にすることができます。
関東ではカランの下は浴場から続く床になっており、風呂桶は床に直接置くのに対し、関西ではカランの下は一段の段が設けてあり、風呂桶はその段の上に置くような仕様になっています。この洗い場の形状も関西の特徴のひとつ。
関東の浴槽はよく見る一般的な浴槽ですが、関西の浴槽周りにはぐるりと段が設置してあることが多いようです。これは湯船に浸かる前にかけ湯をする関西文化ならではで、段に腰掛けながらかけ湯ができるような設計になっているそう。最近は少なくなったというこの中央配置の湯船ですが、昔ながらの関西圏の銭湯ではお目にかかれるかもしれません。地元の銭湯など、もし機会があれば少し気にしてみるとおもしろいかもしれませんね。
意識していなくとも、親しみのある地元の街を歩いているとふと地元密着型の銭湯を見つけたり、引っ越した先で新たな銭湯との出会いがあったり、電車の中から外を眺めているときに銭湯の看板を見つけたり・・その存在を感じると、不思議とどこかほっとするものです。住宅地にふいに現れる銭湯も多く、街に溶け込んでいるケースも多く見られますが、それはその銭湯が長くその街に根付いて街と共に育ってきているからこそではないでしょうか。
地域性やそれぞれのコンセプトなど、個性豊かで特徴的な銭湯。それはある種、地域に特化したそれぞれの個性であり、銭湯がその土地土地で培ってきた性格のようなもの。そう考えて銭湯と触れ合うことを楽しむと、関東・関西の設備の違いというのは、商人の多かった関西と職人の多かった関東の昔の生活様式の違いが、そのまま銭湯の内装や設備・配置に投影されたものであると改めて感じることができるというものです。また現代でもその名残がそこかしこに感じられ、世代を飛び越えてどこか懐かしい古き良き時代への郷愁を覚えるかもしれません。
ただお風呂を楽しみに行くだけではなく、銭湯に行くことで過去の生活様式などにも触れることができると言っても大げさではないような気がします。
筆者 リフナビ東京編集部
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